芦沢央さんの短編集『汚れた手をそこで拭かない』
第164回直木賞候補作にして、「読後感は最悪、でも読む手が止まらない」と話題になり続けている一冊です。
- 「タイトルはよく見るけど、結局どんな話なの?」
- 「直木賞候補って聞くけど、本当に面白いの?」
そんな疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、『汚れた手をそこで拭かない』に収録された5編すべてを、結末まで含めて徹底解説します。
単なるあらすじ紹介ではなく、各話の「怖さの正体」と表題の意味まで踏み込んで考察していきます。
- 5つの短編それぞれのあらすじと解説・考察
- 「汚れた手をそこで拭かない」は面白いのか
- 直木賞候補作としての評価と選評の中身
- 表題「汚れた手をそこで拭かない」に込められた意味
『汚れた手をそこで拭かない』は
オーディブルで聴ける!
「オーディブル 」では、『汚れた手をそこで拭かない』を無料で聴くことが可能。(入会後、30日以内に解約すれば、完全無料です。)
本をたくさん読みたい(聴きたい)人は入会しておいて損はありません!
ぜひ、「読む」とは違った新しい世界を体験してみてください。
ただ、運が悪かっただけ

あらすじ
主人公は十和子(56歳)。
半年前に末期がんで余命宣告を受け、自宅で静かに最期を待つ身です。
彼女の夫は無口で人のいい建具職人。
十和子は、そんな夫が夜な夜な悪夢にうなされることに気づきます。
「何か、私があちらに持っていきましょうか」――妻のその問いかけに、夫は重い口を開きます。
相手は中西茂蔵(71歳)。
近所でも有名なモンスタークレーマーで、工務店に無理な注文を繰り返し、引き渡し直後には「吹き抜けの電球がついていない」と苦情を入れてきた人物でした。
夫は電球の交換に訪れた際、中西に「その脚立を売ってくれ」と請われ、自分の脚立を手放しています。
中西はその脚立を伸ばしたまま屋外に放置し、雨ざらしにして踏みざんを錆びさせていました。
娘は外国人との結婚を父に反対され、縁を切って家を出た過去があり、自身も余命宣告を受けて「死ぬ前に一度」と戻ってきたところでした。
当初は事故死として処理されます。
娘は「父はドアを押さえながら、私がふらつくのを見てニヤニヤ笑っていた」と話した。
ならばその両手は塞がっていたはずで、脚立の破損に気づかないほうが不自然。
つまり、娘は壊れた脚立だと知りながら、父に使わせた――未必の故意。
十和子はそこまで推理を進め、最後に夫へ「あなたのせいじゃない」と告げます。
解説
この一編、5話の中で唯一「読後に深呼吸できる」話です。
ただし、きれいごとで終わらせないのが芦沢央さん。

ユク
ポイントは、十和子が「何にでも意味を見つけたがる性格」だということ。
50歳半ばで末期癌の宣告を受けてからも、「ああすればよかった、こうすればよかった」と自分の人生を採点し続けてきた人です。
そんな人間が、夫の過去という「他人の説明のつかない死」に直面する。
そして真相は、死に必然的な理由なんてなかったという地点に着地します。
娘に殺意があったわけではなく、父の「自分はいつも正しい、うまくいかないのは運が悪いだけだ」という持論を、壊れた脚立で証明させたに近い。
これが本当に巧い。
書評でも「謎が解けて辿り着いた言葉により、罪悪感に囚われていた夫だけでなく、妻自身もまた、自らを苛む葛藤から出ざるを得なくなる物語の構成が、あまりに精緻で美しい」と評されています。
文春オンライン
考察:表題の二重写し
この話のすごさは、「ただ、運が悪かっただけ」という言葉が、作中で正反対の意味を帯びるところにあります。
中西にとっては、自分の失敗を他人と運のせいにする逃げの言葉。
そして十和子にとっては、夫の罪悪感をほどく赦しの言葉。
同じ一文が、傲慢にも慈悲にもなる。

ユク
この表題を1話目に置いた構成そのものが、この短編集全体への導入になっているんですよね。
個人的には、夫が「脚立を売ったこと」をずっと悔やんでいる、その罪悪感の質が好きでした。
人は自分の行為が偶然つながってしまったとき、どこまで責任を感じるべきなのか。
答えは出ないのに、責め続けてしまう。
この作品は第71回日本推理作家協会賞(短編部門)の候補にもなっていて、短編作家としての実力がはっきり出た一篇でもあります。
- 切なさ ★★★★★
- ゾワッと度 ★★☆☆☆
公式サイト:https://www.audible.co.jp/
埋め合わせ

あらすじ
主人公は小学校教諭の千葉秀則。
夏休みのある日、日直としてプールの管理を任されていた彼は、排水バルブを閉め忘れたまま水を半分以上流してしまいます。
プールの水は水道水。
しかも学校の水道代は税金です。
請求額はおよそ13万円。
発覚すれば責任問題、弁済を求められ、査定にも響く。
しかもプール日誌のチェック欄には、習慣で〇をつけてしまっている。
ところが工作の途中、同僚の五木田に見つかってしまう。
五木田は競馬で30万円の借金を抱えている男。
強請られると思った千葉に、五木田は意外にも「手伝ってやる」と言い出す――。
そして迎える結末。
五木田が親切で動いたわけはありません。
千葉は最後に、自分が五木田に利用されていたことに気づきます。
隠蔽の悪知恵では、五木田のほうが何枚も上手だったわけです。
解説
公式が「ミステリーの切れ味をもっとも堪能できるのは「埋め合わせ」だろう」と太鼓判を押す一編。
本当にその通りで、5話の中で一番「ページをめくる手が速くなる」話です。
巧いのは、損害額が13万円という設定。
これが、1000万円なら読者は「無理だろ」と冷める。
でも、13万なら「隠したくなるよな……」と共感してしまう。

ユク
現実のラインを正確に突いてくるんですよね。
作者の芦沢央さんは、連城三紀彦や泡坂妻夫の短編を愛読していて、短編を書くときは「構図の反転、心理の反転を軸に据える」と語っています 。
参考:文藝春秋 本の話
まさにこの話は、反転の連続。
読者はまず千葉を「ダメな先生だな」と冷ややかに見る。
次に隠蔽がエスカレートして胃が痛くなる。
そして最後、気づけば千葉の味方をしている。
視点の置き場所が、読み進めるうちに強制的に動かされる。

ユク
これが快感でもあり拷問でもあります(笑)。
考察:「埋め合わせ」が指す三つの意味
表題の「埋め合わせ」は、少なくとも三層に読めます。
- 失った水の埋め合わせ
(物理的な損失の補填) - 五木田の借金の埋め合わせ
(他人の損失を自分の穴埋めに使う) - 人間関係の埋め合わせ
ミスを隠すための口裏合わせ、つまり共犯という名の埋め合わせ
書評では「それまでの作中の窮地をまるで窮地だと認識しない、怪物じみた存在が突如現れることにもかえってリアリティを感じた」と指摘されていて(文春オンライン)、この“怪物”の正体が五木田です。
悪びれもせず、悪びれる千葉を逆に利用する。
罪悪感のない人間の前では、罪悪感のある人間は無力だという皮肉が突きつけられます。
第72回日本推理作家協会賞(短編部門)候補作にもなった、文句なしの代表作です。
- 切れ味 ★★★★★
- 胃痛度 ★★★★★
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忘却

あらすじ
主人公は、認知症が始まりつつある妻と二人で暮らす武雄という穏やかな老人。
ある夏の日、隣家に住む親切な老人・笹井が、エアコンをつけないまま熱中症で亡くなります。
実は武雄の家には、笹井宛の電気代の督促状が誤配されていた。
妻は「あとで渡さなきゃ」と思いながら、そのまま忘れてしまっていたのです。
ある日、武雄宅のエアコンの調子が悪くなり、電気屋に見てもらうことに。
ところが、電気屋が家を訪れたとき、妻が何気なく「他に壊れているものってないかしら」と口にしたことから、とんでもない事実が発覚します。
笹井は元電気屋で、武雄の部屋の電化製品の修理を無償で行ってくれていた。
その時に、笹井宅のエアコンの配線をつなぎ、盗電していました。
そして、笹井が亡くなった当日、武雄宅のブレーカーがたまたま落ちてしまった。
盗電が止まったことでエアコンが動かなくなり、熱中症で死んだ――つまり自業自得。
武雄が背負う必要のない罪だった、という落着になります。
笹井が最初は罪悪感があったのかもしれないが、そのうち罪悪感も薄れ忘れてしまったのだろう。
日常の中で当たり前になれば、意識すらしなくなる。
たまにふと思い出しても、忘れればいい。
そう思った矢先、妻がまたつぶやきます。
「何か忘れていることはなかったかしら」――。
解説
5編の中で一番ぞっとするのは、間違いなくこれです。
派手な事件は起きない。
起きるのは、郵便物の渡し忘れと、隣人の孤独死。
それだけ。
なのに、文春オンラインの書評者はこう書いています。
軽やかな短い話だが、実は「埋め合わせ」よりも怖いのではないかと思う点がある。
この小説の、不正を働く人間への解像度の高さだ。
文春オンライン
そう、この話の主役は武雄ではなく笹井の「盗電」なんです。
本文には、こんな一節があります。
「もったいない」――ただそれだけだったのだろう。
盗電の始まりは、電気工事代をもらっているくらいの軽い気持ち。
そして続けているうちに、そのこと自体を忘れてしまった。
罪悪感すら発生しないまま、人は人から少しずつ奪って生きている。
考察:「忘却」が三重に効く構造
表題の「忘却」は、三つの忘却が重なっています。
- 妻の忘却(督促状を渡し忘れる=認知症)
- 笹井の忘却(盗電していること自体を忘れる)
- 武雄の忘却――そしてこれが一番怖い。「もう忘れよう」と決めた直後に、妻の一言で忘却が許されなくなる
つまりこの話は、「忘れることでしか生きられない人間」に、忘却を許さない構造になっている。
救いを用意しないまま、そっとフタを閉める。

ユク
この終わり方は、正直しんどいです(笑)。
もう一つ、巧いなと思ったのが伏線の置き方。
督促状の金額が不自然に安い、最終通告が来るまで放置されていた――読者は「なんか変だな」と引っかかる。
でも、まさか隣人が盗電しているとは思わない。
気づいたときには、こちらの“読み”まで回収されている。
直木賞選考でも桐野夏生さんが「「忘却」をはじめとして、どの着想もユニークであることは間違いない」と、この作品を名指しで評価していました。
- 背筋の冷え方 ★★★★★
- 救いのなさ ★★★★★
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お蔵入り

あらすじ
主人公は無名の映画監督・大崎。
ようやく念願の初監督作品を撮り終えた矢先、プロデューサーの森本から厄介な話を聞かされます。
大崎は森本、岸野のマネージャー・福島とともに岸野を詰問します。
「違うと言ってくれ」という期待は裏切られ、岸野は認めて「すまない」と言う。
3人は互いのアリバイを証明し合うことで合意。
ところが、思いもよらない方向から容疑者が浮かび上がります。
共演俳優の小島です。
ロケで宿泊していた旅館の従業員・日野が、「あの日、岸野が小島と言い争う声を聞いた」と証言したのです。
大崎たちは安堵します。
大崎はなんとか小島を救おうと、日野に接触する。
そこで明らかになるのは、日野の偽証が小島への私怨から出たものだということ。彼女は以前、小島に屈辱的な扱いを受け、それを根に持っていた。
そしてもう一つ――日野は、大崎が知らないうちに“あの夜の真相”に触れていた。
作品を守るための交渉は、自分の首を絞める結果になっていきます。
解説
5編の中で一番ドラマチックな話です。
書評でも「このままの筋立てで映像作品として視聴したいくらい起伏に富んだ、本書でもっともドラマチックな話」と絶賛されていました 。
文春オンライン
この話の本当の怖さは事件そのものではありません。
大崎の「願い」が、少しずつすり替わっていくところです。
最初の願いは「映画を公開したい」
岸野を殺したあとは「バレずに済ませたい」
小島に疑いが向いたあとは「小島を救いたい」
でもその実、彼が守りたいのは作品ではなく自分で、願いの着地点がどんどん下がっていく。
この目標のインフレ逆回転が、ものすごく生々しいです。
考察:「空白」が甘い夢を見せる
文春オンラインの書評で一番唸ったのがこの指摘です。
物語が動く大きなトリガーとなる事件の描写において、その瞬間になにが起こったのか、主人公が全く知覚をしていないところに作者の技が光っている。
人はきっと、もっとも直視したくない自分の姿は認識しないのだ。
空白がある。
空白が甘い夢を見せ、都合のいい期待を抱かせる。
そうなんです。
大崎は自分が一番見たくない瞬間を見ていない。
だから「自分はそこまで悪くない」という都合のいい解釈が成立してしまう。
そして読者も、その空白を埋めずに読み進めてしまう。
この構造は、現実の謝罪会見や不祥事の会見とまったく同じですよね。
「認識しておりませんでした」
「確認しておりませんでした」
人は見なかったことにするんじゃなく、本当に見ていない。
そして見ていないことすら、記憶から消える。
さらにこの話は、「一人の醜聞で何十人もの努力が消える」という理不尽も描いています。
岸野一人のせいで映画が世に出ない。
それは理不尽だけど、実際に起きている。

ユク
怒るべき相手は岸野なのか、それとも作品を守ろうとした大崎なのか。
読後はしばらく考え込んでしまいました。
ちなみに「日野の嘘の理由」は読みながらすぐ見当がついてしまうという声も多くて、実際、僕も「あ、これは“コレ”だな」と思いました。
ただ、動機が読めることと、結末が読めることは別。
最後の一言で、事件の主導権が完全にひっくり返ります。
- ドラマ性 ★★★★★
- 後味の悪さ ★★★★☆
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ミモザ

あらすじ
主人公は市川美紀子(旧姓・荒井)。
趣味で書いていた料理ブログが話題になり、出版した料理本がベストセラー。
いまやテレビでも引っ張りだこの料理研究家です。
瀬部は美紀子が学生時代にアルバイトしていた会社の先輩で、当時は既婚者でした。
サイン会のあと、瀬部のメモに従ってバーへ行くと、彼はこう切り出します。
「30万円、貸してくれない?」
仕事を辞めて仏師に師事しているという瀬部。
離婚したとも言う。
かつての恋人のかつてない惨めな姿に、美紀子は「見下してやりたい」という小さなプライドから、つい金を貸してしまう。
しかも借用書は、なぜか彼が持ち去っていく。
1か月後、連絡が来て再会。
夫の話になり、美紀子は「買い過ぎて腐ったものを、こっそり捨てて食べてくれた」ような優しい夫だと答える。
ところが瀬部は返済どころか、さらなる借金を要求。
断る美紀子に、彼はこう言い放ちます。
「30万も元カレに貸していることが旦那にばれたらどうなるかなあ」
無視を続ける美紀子の前に、ある日瀬部が自宅のドアの前で立っている。
近所に見られたくない一心で、彼を家に上げてしまう。
夫の帰宅時間が迫る。
そこで瀬部が放つ一言が、この小説の核心です。
「おまえはいつもこっち見ないもんな。息止めてるし」
瀬部は清掃員として働いており、美紀子の住むマンションを把握していた。
偶然か、計画か。
そして美紀子が「私は悪いことなんてしてないのに」と訴えたとき、瀬部はこう返します。
「悪いことをしたから悪いことが起きるとは限らないんだよ」
事態に気づいているのに何も言わない夫は、遠回しに「ちゃんとして」とだけ告げる。
美紀子は、逃げ場のない部屋に閉じ込められていきます。
解説
タイトルが一番効く一編です。
この話、ミステリとしては謎がほとんどありません。
あるのは「断れない女」と「断らせない男」の、逃げ場のない空気だけ。
でもそれが、5編で一番息苦しい。
書評では「主人公の気弱さ、他者に断言をされると自分の思考がたやすく揺らぐ危うさに、終始ハラハラさせられる。物語が進むにつれ、脅迫者である男だけでなく、事態を解決する能力をまるで持たない主人公も、日常の形さえ整っていれば内側の問題には関与しようとしない夫も、みな等しく不気味に思えてくる」と評されています。
文春オンライン
加害者・被害者・傍観者の全員が不気味。
これがこの話の到達点です。
考察:「悪いことをしたから悪いことが起きるとは限らない」
この一文は、この短編集全体のテーゼだと思います。
僕たちは、理不尽な目に遭ったとき、つい「何かしたからだ」と原因を探します。
過去に悪いことをしたから、傲慢だったから、罰が当たったんだと。
そう考えるほうが、まだ世界に秩序がある気がするから。
でも瀬部は、その前提を爽やかなほど明快に否定する。
「悪いことをしたから悪いことが起きるとは限らない」
つまり善悪と不幸は無関係だ、と。
これは救いのようでいて、究極の絶望です。
だって、努力して清く生きても、不幸は防げないということだから。
そしてもう一つ。
美紀子は9年前、既婚者の男を「見ない」ことで関係を続けた。
いま、夫は妻の異変を「見ない」ことで日常を守っている。
見なければ、日常は壊れない。
でも見ないまま積み上がったものは、必ずどこかで請求書になって戻ってくる。
考察:なぜ「ミモザ」なのか
ミモザの花言葉には「秘密の恋」「友情」「感受性」などがあるとされ、人に言えない関係を象徴する花としても読めます。
なお、直木賞選考ではこの最終話が最も批判されたポイントでした。
林真理子さんは「最後のストーリーは全く納得いかなかった。現在関係があるならともかく、金を貸したばかりに反対に脅迫される。料理研究家として、マスコミで売れっ子になった女性は、もっとのぶとい神経を持っているはずである」と手厳しく評しています。
これ、実は評価が真っ二つに割れるポイントでもあります。
「成功した料理研究家が、そんなに弱いわけがない」と感じるか、「成功した人ほど、昔の関係では弱い」と感じるか。

ユク
僕は完全に後者でした。
外側で成功した人ほど、内側に“昔の自分”を抱えたままですから。
- 息苦しさ ★★★★★
- ラストの一言 ★★★★★
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「汚れた手をそこで拭かない」はオーディブルで聴ける

『汚れた手をそこで拭かない』は、紙でじっくり読むのもいいですが、耳で聴く読書とも相性のいい作品です。
忙しくて本を開く時間が取りにくい人や、通勤・家事・散歩の時間を読書時間に変えたい人には、オーディブルはかなりおすすめです。
オーディブルとは
Audible(オーディブル)は、Amazonが運営するのオーディオブックサービスです。
プロのナレーターが本を朗読してくれるので、内容がスッと入ってきます。
聴く速度は、1.5倍速や2倍速で聴けるので、半分くらいの再生時間で聴き終われます。
スキマ時間を活用できるので、人生の充実度が向上するのが、オーディブルの1番の魅力です。
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「汚れた手をそこで拭かない」を無料で聴く方法
オーディブルに初めて入会する人には、30日間の無料期間があります。
(3ヶ月99円キャンペーン等を行っている場合は、月額99円と少額ですが料金がかかる時もあります。)
また、月途中で解約した場合でも、30日間は聴き続けることが可能です。
もし、4/20に入会し、4/25に解約した場合でも、5/19までは聴き続けることができます。
ただし、解約せずに無料期間30日が過ぎた場合は、自動で料金がかかるので、注意しておきましょう。
公式サイト:https://www.audible.co.jp/
直木賞候補作「汚れた手をそこで拭かない」は面白いのか

この作品は、直木賞候補になるような“面白い”小説なのか。
まず事実関係を整理します。
西條奈加『心淋し川』以外の候補作は、以下の5作品でした。(prizesworld)
| 候補作 | 著者 | 刊行 |
|---|---|---|
| 汚れた手をそこで拭かない | 芦沢央 | 2020年9月・文藝春秋(短篇集5篇) |
| 八月の銀の雪 | 伊与原新 | 2020年10月・新潮社 |
| オルタネート | 加藤シゲアキ | 2020年11月・新潮社 |
| インビジブル | 坂上泉 | 2020年8月・文藝春秋 |
| アンダードッグス | 長浦京 | 2020年8月・KADOKAWA |
結論:「汚れた手をそこで拭かない」は面白い
結論を先にお伝えすると、「汚れた手をそこで拭かない」は、面白いです。
ただし「気持ちよく面白い」ではありません。
- 犯人当てのスリルを期待すると、肩透かしを食らう
- 人物のドラマに浸りたい人には、やや薄く感じられる
- でも「自分だったらどうするか」を延々と考えさせられる小説としては、近年でも屈指の完成度
向いている人・向いていない人は、はっきり分かれます。
- イヤミスが好きな人(湊かなえ、真梨幸子、米澤穂信あたりが平気な人)
- 1話20〜30分で読める短編を探している人
- 「人間の弱さ」をテーマにした小説が好きな人
- 読後に友人と語り合いたい人(議論が絶対に盛り上がります)
- スカッとする勧善懲悪や、カタルシスを求める人
- 明確な犯人・トリックを期待する本格ミステリ好き
- しんどい話を読みたくない時期の人(正直、心が元気なときに読むのがおすすめです)
選評が、この本の性格を言い当てている
選考委員の評を見ると、この作品の「長所と短所」がはっきり出ています(選評出典:『オール讀物』2021年3・4月合併号/prizesworld)。
| 選考委員 | 評 |
|---|---|
| 浅田次郎 | 「まばゆいほどのアイデアに満ちた作品である。(中略)しかし本作を見る限り、そうしたアイデアの集積としか思えなかった」 |
| 北方謙三 | 「人間描写より、ミステリー的なアイデアを先行させた作品だと思う。人が平板であり、立ちあがってこないのだ」 |
| 桐野夏生 | 「誰の手がどうして汚れているのか、そして、その手をどこで拭いてはいけないと誰が言っているのか。この素朴な疑問に、ここに収められた作品が答えを出してくれないのが気になった。しかし、「忘却」をはじめとして、どの着想もユニークであることは間違いない」 |
| 高村薫 | 「謎解きありきの趣向が勝ちすぎ、登場人物がみな手品のカードのように顔がない」 |
| 三浦しをん | 「ミステリとしては謎解きがやや小粒な印象を否めず……バランスがちょっと惜しいと感じた」 |
| 角田光代 | 「描かれた人に出会ったり、描かれたできごとを見てしまった印象があまりなく、さまざまなアイディアの妙ばかりが印象に残るのは残念だった」 |
総じて「アイデアは天才的だが、人物の厚みと謎のスケールは物足りない」。
賛辞と辛口が半々、というのが正確なところです。
読者の評価も、絶賛一色ではない
読書メーターでの評価は68%(登録数8,485件)。(bookmeter)
決して「全員が絶賛」ではありません。
ただ、レビューの中身を読むと、評価の割れ方がはっきり見えてきます。
- はい。めちゃくちゃ最悪でした。短編集ですが、すべてが自分のそばにも降りかかる可能性のあるもので、本当に嫌な気持ちになりました。(誉め言葉)
aachaxxx.hatenablog.com - どの話も「自分もこういう考え方をしてしまうかも」みたいな嫌なリアリティがある。苦虫を噛み潰しながら読んでいる気持ちになりつつ続きが気になり読む手が止まらなかった。
note
「最悪」が褒め言葉になる。
これがイヤミスというジャンルの評価軸です。
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「汚れた手をそこで拭かない」基本情報

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 汚れた手をそこで拭かない |
| 著者 | 芦沢央(あしざわ・よう) |
| 単行本 | 2020年9月26日/文藝春秋/240ページ |
| 文庫版 | 2023年11月/文春文庫/288ページ |
| オーディオブック | Audible版あり(朗読:野崎千華) |
| 主な実績 | 第164回直木賞候補作/第42回吉川英治文学新人賞候補作 |
| 収録作 | 5編(すべて独立した短編) |
著者の芦沢央さんは1984年生まれ、千葉大学文学部卒。
出版社勤務を経て、2012年に『罪の余白』で野性時代フロンティア文学賞を受賞してデビューした作家です。
本書について出版社は「第164回直木賞候補作。ひたひたと忍び寄る恐怖、ぬるりと変容する日常」と紹介していて、帯には彩瀬まるさんが「閉鎖空間に監禁されたデスゲームの参加者のような切迫感」というコメントを寄せています。
監禁される描写は一度も出てこないのに、デスゲームの切迫感。
これが本の怖さを言い切っています。
そして作者本人が語っている、一冊を貫く裏テーマは「お金」。
「大金を得て人生が変わったり、お金の貸し借りに縛られてしまったり……どの短編も、お金のもついろんな側面に光を当てる狙いがあります」
文藝春秋 本の話
5編は登場人物も共有していない、完全に独立した短編集です。
いまのミステリ短編集はシリーズものが主流なので、これも珍しい作り。
芦沢央さんは「読むのも書くのも独立短編がとにかく好き」と話しています。
タイトル「汚れた手をそこで拭かない」の意味とは
このタイトルの意味について考察します。
汚れた手を、そこで拭かない――。
ちょっとした失敗を、近くのカーテンでさっと拭いてしまう。
誰も見ていないから大丈夫。
でもその汚れは、気づかないうちに広がって、取り返しのつかないシミになる。
文春オンラインの書評は、この問いをさらに深いところまで連れていきます。
汚れた手を、どこで拭けばよかったんだろう。
(中略)もちろん、手を洗えたら一番よかったのだろう。
流し台に立って蛇口をひねり、流水に手を浸して、石鹸を使えたら。
しかし彼らが囚われた部屋に流し台はない。そして「表沙汰にしたくない」と思った瞬間、部屋の出口は塗りつぶされる。
文春オンライン
「表沙汰にしたくない」と思った瞬間、出口は消える。
これ、この本のすべてを言い切っています。
5編に共通するのは、「言ってしまえば終わる話」を、全員が言わないこと。
プールの水も、脚立の傷も、督促状も、殺人も、30万円も。
でも人間は、その5分を選べない。
プライドや保身や、家族を守りたい気持ちが邪魔をする。
汚れた手をちゃんとした場所で拭けば、取り返しのつかないことには、ならなかったのかもしれません。
公式サイト:https://www.audible.co.jp/
「汚れた手をそこで拭かない」解説:まとめ
『汚れた手をそこで拭かない』について、5編すべてを結末まで含めて解説・考察してきました。
各話の内容を整理すると、以下の通りです。
| 話 | 主人公 | きっかけ | 核心 |
|---|---|---|---|
| ただ、運が悪かっただけ | 余命の妻・十和子 | 夫の過去の告白 | 死に理由はない。赦しと持論の崩壊 |
| 埋め合わせ | 小学校教諭・千葉 | プールの水13万円 | 罪悪感のない人間に利用される恐怖 |
| 忘却 | 老人・武雄 | 誤配された督促状 | 盗電と忘却。忘れることの罪 |
| お蔵入り | 映画監督・大崎 | 主演俳優の薬物疑惑 | “見ていない”空白が甘い夢を見せる |
| ミモザ | 料理研究家・美紀子 | 元不倫相手への30万円 | 善悪と不幸は無関係だという宣告 |
この本は、人にすすめるときに少し勇気がいる本です。
「面白かったよ」と言ったあと、「でも気分は悪くなるから」と付け足さないといけない(笑)。
でも、それだけ自分の日常に引き寄せて読める小説は多くありません。
怪物も幽霊も出てこない。
出てくるのは、ちょっとした嘘をついたことのある普通の人たちだけ。
つまり、読者である私たち自身です。
あなたの手は、いま綺麗ですか?
そして、もし汚れていたとして――どこで拭くのが正解だったんでしょうか。
読み終えたあと、しばらく考え込んでしまう一冊です。
公式サイト:https://www.audible.co.jp/
-参考URL-
- 『汚れた手をそこで拭かない』単行本|文藝春秋
- 『汚れた手をそこで拭かない』文春文庫|文藝春秋
- 芦沢央インタビュー「けれど読むのを止められない」|本の話
- 書評「流し台のない部屋で」|文春オンライン
- 芦沢央 直木賞候補作家ページ|prizesworld
- 直木賞受賞作・候補作一覧(第161〜180回)|prizesworld
- 『汚れた手をそこで拭かない』|読書メーター
- 【汚れた手をそこで拭かない】苦虫を噛み潰した気持ちになる短編集|note
- 汚れた手をそこで拭かない 読解①|note
- 汚れた手をそこで拭かない/芦沢央 ※ネタバレ要素あり|本好きの秘密基地
- 『汚れた手をそこで拭かない』あらすじと結末を考察|note
- 「汚れた手をそこで拭かない」芦沢央|チェルミーの読書日記
- 芦沢央さん「汚れた手をそこで拭かない」|感想ブログ
- 「忘却」についての考察|Yahoo!知恵袋