『存在のすべてを』は、2024年本屋大賞第3位に輝き、第9回渡辺淳一文学賞を受賞した塩田武士さんの渾身の長編ミステリーです。

二児同時誘拐、警察の判断ミス、そして失われた「空白の3年」――。
あまりにもリアルな描写に、実話なのか気になりますよね。

この記事では、『存在のすべてを』の元ネタは実話なのかモデルとなった事件はあるのか、それとも完全なフィクションなのかを解説します。

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ユク

ネタバレなしのあらすじから、ネタバレありの結末解説まで、この記事を読めば『存在のすべてを』の全貌が丸わかりになります。

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『存在のすべてを』の元ネタは実在する?フィクションとの境界線

『存在のすべてを』は、フィクションとは思えないほどの臨場感に満ちていましたよね。

結論から言えば、『存在のすべてを』に特定のモデルとなった実在の事件はありません

では、なぜここまでリアルに感じられるのでしょうか?
その秘密は、作者・塩田武士さんの経歴と徹底した取材姿勢にあります。

『存在のすべてを』モデルとなった事件はあるのか

結論から言うと、『存在のすべてを』にモデルとなった事件はありません。

完全なフィクションとして創作された物語です。

塩田武士さんの取材力

塩田武士さんは、関西学院大学卒業後、神戸新聞社に入社し、約10年間新聞記者として活躍した経歴を持ちます。

2010年に『盤上のアルファ』で小説家デビューを果たし、2012年に専業作家となりました。

新聞記者としての経験からくる取材力が、『存在のすべてを』にリアリティを与えています。

本人のインタビューによると:

「この作品のために、できることは全部しました。誘拐ものを扱う時に、資料がほとんどないので警察関係者と接触して、捜査手法や当時の機材なども徹底的に話を聞きました。書かれていることはすべて本当のことです

特に印象的なのが、誘拐と立てこもりの違いについての記述です。

「立てこもりは訓練すればするほど安心するけど、誘拐はすればするほど不安になる」

これは、実際の刑事から聞いた生の言葉とのこと。
こうした徹底した取材がなければ、決して書けない描写です。

徹底的な現地取材と資料収集

塩田さんの取材は、警察関係者へのヒアリングだけにとどまりません。

  • 1991年当時の横浜市中区の住宅地図を入手
  • 現場を一つずつ歩いて写真撮影
  • 横浜市に開示請求を行い、当時と現在の現場を写真で見比べ

物語の舞台となった場所を、まるで事件の痕跡を追うかのように丁寧に取材しています。

さらに、物語の重要な要素である「写実絵画」についても、日本を代表する写実画家・野田弘志氏のアトリエを北海道まで訪問
実際に作品を見せていただき、創作への姿勢についても深く話を伺ったそうです。

実は、『存在のすべてを』の表紙に使われているのも、野田弘志氏の油彩画です。

『存在のすべてを』が実話だと感じる理由

多くの読者が「これは実話では?」と感じてしまう理由は、次の3点にあります。

  1. 警察の捜査手法が異様に詳しい: 元新聞記者として警察担当の経験があるからこそ書ける、リアルな捜査の現場
  2. 1991年という具体的な時代設定: 実際の社会情勢や風景を精密に再現
  3. 「二児同時誘拐」という前代未聞の設定: あまりにも特異な事件性が、「実際にあったのでは?」という錯覚を生む

塩田さん自身も、代表作『罪の声』で「グリコ・森永事件」をモチーフにした経験があります。
しかし、『存在のすべてを』ではあえて特定のモデル事件を設けず、完全なフィクションとして創作しました。

その理由について、塩田さんはこう語っています。

「日本では平成18年(2006年)以降、身代金目的誘拐は起きていないと聞きました。つまり、もう誘拐がこの国において成り立たなくなっている。この時代になったからこそ開示できた。こうして書けるのも時の流れです」

実在の事件がないからこそ、逆に誘拐事件のリアルな手法や捜査の裏側を、ここまで詳細に描くことができたのだと思います。

フィクションに込められた「真実」

「フィクションだからこそ描ける真実がある」――これが、『存在のすべてを』最大のテーマです。

「虚実」を見つめ続ける作家の姿勢

塩田武士さんは、自身の”師匠”として松本清張と山崎豊子の名を挙げています。

特に松本清張の「虚実」を見つめる姿勢は、塩田さんの創作の核となっています。

「清張の『虚実』を見つめノンフィクションを書いてきたことは、今の時代にも当てはまると思います。あくまでも僕は『虚実』の作家で『ファンタジー』は書けませんから。やっぱり虚実を考え続けることが、”師匠”の遺志を受け継ぐことだと思うんです」

『存在のすべてを』には、松本清張の短編『絵はがきの少女』の影響も受けているようです。

絵画を通じてその場所や人物を特定していく手法は、清張作品へのオマージュでもあるのです。

犯人当てではなく「空白の3年」を追う理由

塩田さんは、こうも語っています。

「男児が誘拐されてから姿を消していた『空白の3年』を入れることで、その3年の間に『実』や『本質』が詰まっているという構成です。犯罪者って基本的にしょうもないんですよ。だからそれを美化するのもという気持ちもありましたし、ミステリーだからといって犯人当てみたいなのも表層的で嫌でした。人間がそこにいてほしかった。だから犯人ではなくて、空白の3年を追うというストーリーなんです」

『存在のすべてを』は、誘拐事件の犯人を追うミステリーではなく、失われた3年間に何があったのか、そこでどんな人間の営みがあったのかが描かれた物語です。

参照:【インタビュー】塩田武士が見た、松本清張の背中 話題作『存在のすべてを』で挑んだ「壁」

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『存在のすべてを』あらすじ

登場人物

【主要登場人物】

■ 門田次郎(もんでん・じろう)
本作の主人公。大日新聞の記者で、現在は地方支局長。54歳。1991年の誘拐事件当時は入社2年目の新米記者として警察担当を務めていた。旧知の刑事・中澤の死をきっかけに、30年前の事件の真相を追い始める。事実を積み重ねて真実を炙り出す、記者としての矜持を持つ人物。

■ 如月脩(きさらぎ・しゅう) / 内藤亮(ないとう・りょう)
1991年の二児同時誘拐事件の被害者。誘拐当時4歳。3年後の1994年に祖父母の元に突然戻ってくるが、「空白の3年間」の記憶を失っている。成人後、気鋭の写実画家「如月脩」として成功を収める。

■ 野本貴彦(のもと・たかひこ)
謎の写実画家。内藤亮の「空白の3年間」に深く関わる人物。優しく繊細な性格で、絵画への情熱を持つ。

■ 土屋里穂(つちや・りほ)
内藤亮の幼なじみで初恋の相手。父親が経営する画廊で働いている。亮への想いを胸に秘めながら、彼の過去の真実に近づいていく。

■ 中澤洋一(なかざわ・よういち)
神奈川県警の刑事。1991年の誘拐事件を担当し、定年後も事件を追い続けた。彼の死が、門田次郎が再び事件に向き合うきっかけとなる。

■ 岸朔之介(きし・さくのすけ)
銀座の画商。写実絵画の世界に精通しており、野本貴彦を援助した人物。物語の重要な証言者の一人。

■ 木島茂(きじま・しげる)
内藤亮の祖父。3年後に突然戻ってきた孫を温かく迎え入れるが、「空白の3年間」については固く口を閉ざす。

『存在のすべてを』あらすじ|ネタバレなし

この章は、ネタバレなしで、あらすじをご紹介します。まだ読んでいない方も安心してお読みください。

平成3年、神奈川県で起きた前代未聞の「二児同時誘拐事件」。

小6と4歳の男児が別々に誘拐され、捜査本部は大混乱に陥ります。

一人は無事保護されたものの、もう一人の4歳男児・内藤亮は行方不明となり、生存すら絶望視されます。

しかし、3年後、亮は突然祖父母のもとに元気な姿で帰還。
絵も上手くなっていた彼ですが、「空白の3年間」については一切語らず、家族も警察に協力しませんでした。

そして事件は、世間の記憶から薄れていきます。

30年後の2021年。
当時事件を担当した大日新聞記者・門田次郎は、旧知の刑事・中澤の死をきっかけに、亮の「今」を知ります。

亮は如月脩という筆名で活躍する写実画家として注目を集めていました。

門田は再取材を始め、写実画の世界や関係者たちを辿る中で、事件の異様な真相に迫っていきます。

『存在のすべてを』あらすじ|ネタバレあり(相関図・時系列)

ここからは、ネタバレを含みます。結末を知りたくない人は、読まないでください。
【『存在のすべてを』Q&A|よくある質問】に進む

物語の核心は「空白の3年間」の真相にあります。

誘拐犯は、野本雅彦(貴彦の兄)でした。

雅彦は身代金目的で亮を誘拐しましたが、計画が失敗し、弟の貴彦に「預かってくれ」と押しつけます。

貴彦と妻・優美は当初戸惑いながらも、亮の実母がネグレクト気味だったことを知り、亮を本当の我が子のように愛し、各地を転々としながら育てます。

絵の才能を見出した貴彦は亮に写実画を教え、優美は母親以上の愛情を注ぎます。

この3年間、亮は初めて「幸せ」を感じ、画家としての基盤を築きます。

しかし、亮が小学校年齢になると隠し通せなくなり、貴彦夫妻は苦渋の決断で亮を祖父母のもとに返します。

亮は「この家で育ててください」と言い、夫妻との別れを涙で耐えます。

その後、夫婦は消息を絶ちます。

如月脩となった亮は、夫妻への恩義と愛から真相を語らず、絵に「実」を込めて存在を証明し続けます。

門田の取材は、野本夫妻の足跡と絵を辿ることで真相に到達。

ラストでは、亮のアトリエに優美がいることが判明します。

貴彦と優美は、犯罪に加担してしまった罪を背負いながら、それでも亮を心から愛していました。

彼らにとって、あの3年間こそが、唯一の「家族」としての時間だったのです。

『存在のすべてを』時系列

【1991年 誘拐事件】
├─ 被害者①:立花敦之(小6)→ すぐに保護される
├─ 被害者②:内藤亮(4歳)→ 行方不明 → 3年後に帰還
└─ 実行犯:野本雅彦 + 尾崎康夫ら

【空白の3年間(1991-1994)】
├─ 内藤亮を育てた:野本貴彦 & 野本優美(夫婦)
└─ 援助者:岸朔之介(画商)

【30年後(2021年)】
├─ 真相を追う:門田次郎(元新聞記者)
├─ 写実画家:如月脩(内藤亮)
├─ 幼なじみ:土屋里穂
└─ 謎:野本貴彦の行方

存在のすべてを相関図

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『存在のすべてを』Q&A|よくある質問

  • Q. 存在のすべてをの元ネタは実在の事件ですか?
  • Q. オーディブルで聴くのと紙の本で読むのとどちらがおすすめ?
  • Q. 映画化の予定はありますか?

Q. 存在のすべてをの元ネタは実在の事件ですか?

A. いいえ、『存在のすべてを』に特定のモデルとなった実在の事件はありません。完全なフィクションとして創作された物語です。

Q. オーディブルで聴くのと紙の本で読むのとどちらがおすすめ?

A.登場人物の感情や空気感を重視するならオーディブル、じっくり考えながら読みたい人には紙の本がおすすめです。

Q. 映画化の予定はありますか?

A. はい、2027年に映画『存在のすべてを』が全国公開予定です。

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『存在のすべてを』元ネタ:まとめ

『存在のすべてを』は、特定の実在事件を元ネタにした作品ではありませんが、現代社会で実際に起こり得る出来事や構造を丁寧にすくい取ったフィクションです。

■ 元ネタについて
  • 『存在のすべてを』に特定のモデルとなった実在の事件はありません
  • 完全なフィクションとして創作された物語です
  • ただし、作者・塩田武士さんの元新聞記者としての徹底的な取材により、異様なリアリティを実現
  • 警察関係者へのヒアリング、現地取材、写実画家への取材など、「書かれていることはすべて本当のこと」

■ 物語の核心
  • 平成3年(1991年)に起きた「二児同時誘拐事件」から30年後の真相を描く
  • 最大の謎は、被害者が過ごした「空白の3年間」
  • 単なる誘拐ミステリーではなく、愛と犠牲、人間の本質を問う深い物語
  • 松本清張の「虚実」を受け継ぎ、フィクションだからこそ描ける真実を追求

『存在のすべてを』は、472ページという大作です。「読みたいけど時間がない」「途中で挫折しそう」と感じている方も多いかもしれません。

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